「同業の老舗が、人手不足を理由に倒産した――」
そんなニュースが他人事ではなく、自社の未来と重なって見えたとき、あなたはどう感じるでしょうか。
今回は、まさにそのような現実に直面し、危機感を抱いた鋼構造物工事業の経営者の方からご相談をいただきました。
建設業全体が抱える“人材確保”という大きな課題に、どのように向き合うべきかを一緒に考えていきたいと思います。
<ご相談>安定的な人材確保に向けて、何をすべきか?

最近、近隣の老舗鋼構造物工事会社が倒産したと耳にしました。創業50年を超える業歴のある会社だったそうで、業績不振ではなく、人手不足による倒産だったとのことです。
このニュースを聞いて、正直「自分の会社も同じ道をたどるのではないか」という恐怖を覚えました。
当社も同様に、若手技術者の採用が非常に難しく、現在は高齢の職人に業務が集中している状態です。
その影響で受注できる仕事に限りがあり、工期が遅れがちになり、元請からの信頼も揺らいでいます。
固定費の削減にも限界があり、今後の見通しも厳しい中で、何としてでも人材を確保して会社を維持したいと考えています。
ただ、業績は芳しくなく、資金繰りにも余裕はありません。このような状況でも、何か人材確保のための有効な手段はあるのでしょうか?
<回答>足元を固めつつ、将来への布石を打つしかない

ご相談ありがとうございます。
このお悩みは、今や多くの中小建設業が直面している極めて現実的なものです。
建設業の「人手不足倒産」は現実
帝国データバンクの2024年度上半期の調査によれば、人手不足倒産は全国で163件。そのうち、建設業は55件(全体の33.7%)を占めて最多となっています。
しかもこれは、財務的に“健全”な企業であっても、人がいないことで倒産に追い込まれているということです。
今できること①:「辞めさせない」ことが最優先
新しい人を採る前に、まずは今いる人を辞めさせないことが最も重要です。
これは採用よりも効果が大きく、かつ即効性があります。
- ベテラン社員が体調を崩していないか
- 現場の負担が集中していないか
- 若手が孤立していないか
- 定期的に声をかけているか
「定着率を高める」ことは、中小企業が採用戦で勝つための“第一歩”です。
今できること②:外注の活用と業務の絞り込み
短期的には、外注先とのネットワーク強化も重要です。
協力業者との連携や、業務内容の一部委託を戦略的に進めることで、一定の施工能力を維持できます。
同時に、自社が「何をやらないか」も明確にして、業務を選別・集中することも一つの手段です。
“なんでもやる”から“選んでやる”へ。限られた戦力で成果を出すためには、この意識の切り替えが不可欠です。
中長期の打ち手:採用マーケティングと組織ブランディング
ご相談者のように「採用にお金をかけられない」「知名度がない」という会社こそ、マーケティングの力を借りるべき時代です。
なぜ“採用マーケティング”なのか?
今の若者は、求人情報を見る前に、SNSやGoogleで会社を検索します。
しかし多くの中小建設業では、「会社の魅力を発信する場」がほとんど整っていません。
- ホームページが古い
- 施工事例が見られない
- 社員の声が出ていない
- 社長の想いが伝わらない
採用マーケティングの基本ステップ
採用活動は、もはや「待つ時代」ではありません。
以下のようなステップで、“選ばれる会社”を目指しましょう。
魅力の棚卸し(定性的価値の明確化)
- 地域での歴史と信頼
- 安定した元請け先との取引
- 面倒見の良い先輩社員
- 資格取得支援や週休二日制の実現など
まずは、会社の魅力を言語化・可視化するところからスタートです。
情報発信の設計(Web・SNS)
- ホームページの刷新
- InstagramやTikTokで現場紹介
- YouTubeで社員インタビュー動画発信
応募導線の整備
- 応募フォームの簡素化
- LINEでの問い合わせ対応
- 企業紹介パンフレットのPDF化
採用力の強化に役立つ助成金
意外と知られていないのが、採用力の強化に役立つ助成金の存在です。
たとえば、
- 業務改善助成金(生産性向上や労働環境改善)
- 人材開発支援助成金(訓練・育成系)
- キャリアアップ助成金(非正規雇用→正社員転換)
これらを上手く活用することで、WebサイトやSNSの構築・運用、教育訓練体制の整備に必要なコスト負担を抑えられる可能性もあります。
「人がいない」から考えるべき“組織の未来像”
人が集まらないからこそ、今後は少数精鋭の強い組織をどうつくるかが鍵です。
- 「一人当たり売上」の最大化
- 少人数で成果が出せる業務フロー設計
- 多能工化やICT活用による効率アップ
- 外部パートナーとの連携強化
採用はあくまで手段であって、「どういう会社を目指すのか」という設計が先にあるべきです。
いち早く動いた会社が、生き残る
人材問題は「待っていても解決しない」テーマです。
むしろ、今のうちに対策を打てる会社とそうでない会社とでは、数年後には決定的な差が生まれます。
「もう少し様子を見てから」と考えているうちに、優秀な人材も、案件も、パートナーも離れていく――
そんな未来を避けるためにも、“今ある危機感”こそが、未来を変えるチャンスです。
さいごに:人材不足は「経営課題」でも「社会課題」でもあるが、対応できる余地がある
今回ご相談いただいたように、老舗企業ですら人材不足で倒産してしまう時代です。
そもそも労働者の母数が減っているのですから、経営者の努力だけで乗り越えるには限界がある「社会課題」でもあります。
しかし、そのような中でも若者からの求人応募が絶えない中小建設事業者が存在しています。
選ばれる企業になるためには世間のトレンドをキャッチし柔軟に変化していく姿勢を持たなければなりません。
弊社では、採用マーケティング・ブランディング・補助金や助成金の活用など、中小建設業の人材課題に特化したサポートを行っております。
相談は無料ですので、「何から始めたらいいかわからない」という段階でも、お気軽にお問い合わせください。
人が足りない時代に、どう人を集め、育て、残すか――
それが、これからの建設業の未来を左右する最大の経営テーマです。
御社の明日を守る一歩を、今ここから踏み出しましょう。
中小企業診断士
田中 寛也 (Hiroya Tanaka)
建設業に特化した経営コンサルティング会社「タタアイズ」代表。売上と利益を改善する直接的な支援に強みを持ち、地域の中小企業の持続的成長をサポートしている。
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