【“現場力はある”が組織が続かない──そんな電気工事会社の打開策】

【“現場力はある”が組織が続かない──そんな建設会社の打開策】

こんにちは。今回は、電気工事業を営むある経営者の方から、非常に切実なご相談をいただきました。

建設業界では、「現場は強いが組織が弱い」という状態に陥っている企業が少なくありません。これは特に、職人主導で成長してきた企業に多く見られる課題です。現場のスキルや評価は高い一方で、社内のマネジメント機能が追いつかず、結果として人材が定着しない、組織が続かないという事態に直面します。

以下、ご相談内容と解決に向けた提案を整理します。

ご相談:「人はいる。技術もある。でも組織が続かない」

ご相談:「人はいる。技術もある。でも組織が続かない」

当社は設立20年、従業員30名規模の電気工事会社です。公共工事の評価も高く、施工品質や顧客対応にも自信があります。

しかし、ここ数年は人が定着しません。若手を採用しても2〜3年で辞めてしまう。中堅社員を主任や課長に昇格させても、部下をまとめられずチームが崩壊するケースが続いています。

現場に強い人はいても、組織を引っ張る“中核人材”が育たず、結局、現場と経営の両方を私が背負う状況が続いています。

このままでは限界です。どうすれば会社としての体制を整え、組織として成長できるのでしょうか?

回答:「技術」から「組織」への経営転換を

回答:「技術」から「組織」への経営転換を

ご相談ありがとうございます。

多くの中小建設会社が直面しているのが、「現場力の強さ」だけで走ってきた会社が、ある時点で「組織の限界」に突き当たるという壁です。これは自然な成長過程であり、むしろ次のステージへの分岐点とも言えます。

会社を持続的に成長させていくには、技術力に加えて、「人が育ち、役割を果たし、組織が自走する仕組み」が必要不可欠です。

以下では、組織崩壊を防ぎ、持続可能な運営体制を築くための打開策を3つのステップで整理します。

① 幹部候補の選抜と「育成の見える化」

まず最初に行うべきは、「幹部候補の明確化」「育成計画の設計」です。

現場で優秀な社員が、必ずしもマネジメントに向いているとは限りません。だからこそ、幹部候補者にはどのような資質・スキルが必要なのかを定義し、任せたい役割を具体的に示す必要があります。

以下のように期待される能力を可視化しましょう:

  • リーダーシップ:部下に指示が出せる、叱れる
  • コミュニケーション:上司・部下・外部との調整力
  • マネジメント:現場進捗・原価・人員の把握と報告
  • 責任感:成果や失敗に対する当事者意識

育成には計画性が必要です。「いずれ課長に」という曖昧な期待ではなく、

「半年後に3名チームのマネジメントを任せる。そのために月次で研修とフィードバックを実施」

といった具体的なステップを示すことで、本人の意識も大きく変わっていきます。

② 現場リーダーとマネジメント層の役割分担を明確に

次に取り組むべきは、「現場力」「組織力」役割分担です。

多くの企業が失敗しているのは、「現場ができる人にマネジメントもやらせている」こと。いわゆる“プレイングマネージャー”ですが、これは非常に高難度な役割であり、多くの社員が対応しきれずに疲弊・離職していきます。

この問題を解決するためには、現場は外注や協力会社とのネットワーク強化で対応し、社内人材はマネジメントに特化させることが有効です。

たとえば:

  • 現場管理は熟練外注スタッフと協力体制を構築
  • 社員は監督・工程管理・報告に集中
  • 複雑な案件には社長または統括者が定期支援

これにより、社員が「自分の役割に集中できる環境」を整えることができ、離職率や負担感の軽減にもつながります。

③ 育成環境と定着支援の“仕組み化”

最後に重要なのは、「育成と定着の仕組みを制度化する」ことです。

● 育成施策

  • 助成金を活用した管理職研修
  • 外部講師によるマネジメントスキル向上研修
  • 計画的なOJT・メンタリング体制

研修には「人材開発支援助成金」などを活用すれば、低コストで高い効果を得ることができます。

● 定着支援

  • キャリアパス制度の明確化
  • 評価制度の導入
  • 定期的な1on1面談やフォロー体制の整備

また、近年では外国人材の採用・定着支援も現実的な選択肢になっています。特定技能制度の活用などにより、ダイバーシティ対応を進める企業も増えています。

これらを“場当たり”ではなく、“制度”として社内に組み込むことで、安定した組織運営と中長期的な人材育成が可能になります。

今こそ「組織軸」の再構築を

現場の評価が高い企業ほど、「技術=会社の価値」と思い込みがちです。

しかし、技術は“人”に宿るもの。その人が辞めれば、技術も会社の財産も失われます。

だからこそ、今必要なのは「組織の軸」の再構築です。

そのポイントは以下の通りです:

  • ミッション・ビジョンを共有できる幹部人材の存在
  • 各ポジションの役割と責任の明確化
  • 育成と定着支援の制度化
  • 社長に依存しない判断・実行体制の構築

これらを整備することで、「現場が強いだけの会社」から「組織として継続・発展する会社」へと進化することができます。

また、現場から一歩引いた視点で会社全体を見渡す“経営の土台”を整えることで、元請け受注や公共工事の拡大、新たなエリア展開といった戦略的なチャレンジにも踏み出しやすくなります。

今の組織づくりは、未来の売上づくりです。いま手を打てるかどうかが、5年後10年後の会社の姿を決定づけると言っても過言ではありません。

最後に:社長一人で悩まないでください

社長がすべての判断と責任を背負う経営は、もはや限界に近づいています。

事業を安定的に成長させるためには、外部の専門家もうまく活用しながら、社内体制の整備に取り組むことが重要です。

右腕・幹部・管理職という「会社の内側」を整備することに本気で向き合っていただければ、業績も自然とついてくるはずです。

弊社が提供するご支援(一例)
  • 幹部育成計画の策定支援
  • 各種補助金・助成金の活用アドバイス
  • 組織診断とマネジメント体制の構築
  • 営業力強化・採用マーケティングの導入支援

    

執筆者

中小企業診断士 

田中 寛也 (Hiroya Tanaka)

建設業に特化した経営コンサルティング会社「タタアイズ」代表。売上と利益を改善する直接的な支援に強みを持ち、地域の中小企業の持続的成長をサポートしている。

タナカヒロヤ(田中寛也)

※本記事は、実際の中小建設業からのご相談事例を基に、一部フィクションを加えて再構成しています。

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