中小建設業の経営者にとって、「このまま事業を続けるべきか、それとも誰かに託すべきか」という悩みは決して珍しいものではありません。
特に創業から30年、40年と積み重ねてきた会社ほど、現場対応力や信頼ある顧客基盤を持ちながらも、経営環境の変化や後継者不在、財務悪化など複雑な課題に直面しています。
今回は、まさにそうした岐路に立つ設備工事会社の2代目経営者の方からいただいたご相談をもとに、「事業再生」と「M&A」という2つの選択肢について考察していきたいと思います。
<ご相談>経営の重責に立ち向かうのがつらく自信を喪失している…

私は父から事業を承継して5年になる、給排水設備工事会社の経営者です。
当社は創業35年、従業員10名、年商約2億円。管工事の有資格者も複数おり、施工品質には自信があります。大手サブコンとの継続的な取引実績もあり、現場対応力にも一定の評価をいただいてきました。
しかし、現在の経営状況は非常に厳しいものです。コロナ禍の前後でメインの営業担当者が退職した影響から売上が落ち込み、さらに資材費や外注費の高騰も重なって赤字が累積し、大幅な債務超過に陥っています。
若手社員も、こうした経営状況を察してか退職が相次ぎ、結果として私自身が常に現場に出続けなければ業務が回らないという日々が続いています。
経営者としての孤独と疲労感も限界に近づいており、「このまま経営を続けるべきか」「外部に託すという選択もあるのではないか」と自問する日々です。
技術力と実績を次の世代に繋ぎたい気持ちはあるものの、自分に経営者としての適性があるのか、気力が続くのか、不安でいっぱいです。
<回答>結局はご自身の覚悟次第

まず、このようなご相談は決して珍しいものではありません。
厳しい状況の中で弱音を吐きたくなるお気持ちは当然のことです。しかし、現状を打開するためには、揺るぎない覚悟と強い意志が不可欠です。
もしもその覚悟を持てないのであれば、ご自身が経営を担い続けることが、ステークホルダーにとって最善とは言えないかもしれません。
一方、技術・人材・顧客基盤といった“事業の中核的価値”が残っている限り、再生も、M&Aによる承継も現実的な選択肢です。
以下、2つの道について整理していきます。
再生という選択肢:会社を立て直す
ご相談内容からは、「現場は回っている」「技術者もいる」「実績もある」ことがわかります。これは“潰してはいけない会社”です。
再生可能性は十分あります。
資金繰りの安定=金融調整
まずはリスケ(返済猶予など)を含む金融調整を行い、資金繰りを安定させることが第一歩です。金融調整を行うためには、説得力のある経営改善計画を作る必要がありますが、
中小企業活性化協議会の405事業(経営改善計画策定支援)を活用すれば、費用負担を抑えながら認定支援機関(税理士や中小企業診断士などの専門家)から計画策定の支援を受けることができます。
収益構造・業務体制の見直し
利益率の改善、外注費の最適化、人員配置、業務標準化、無駄の削減など、オペレーション面の見直しも必要です。
特に「社長の過剰な現場関与」から脱却し、組織として回る体制を作ることが再生の鍵です。
再生型M&Aという選択肢:託して残す
もし「気力がもう限界」「自分で立て直すのは難しい」と感じているのであれば、再生型M&Aも現実的な手段です。
これは、事業に価値があるにもかかわらず、経営難や後継者不在で将来が描けない会社を、買い手が引き継ぎ、再構築していくスキームです。
- 財務基盤の強化:買い手企業が債務を整理し、資金繰りを安定化
- 雇用と顧客の継続:従業員と顧客の関係を維持したまま経営承継
- シナジーの創出:買い手の営業力や管理体制との連携で成長可能性を拡大
買い手にとっても、管工事の有資格者や公共工事実績、地域密着の営業基盤を一括で取得できるという意味で、大きなメリットがあります。
判断基準は「ご自身の意思」
最終的に、再生かM&Aかを選ぶ上で重要なのは、ご本人がどれだけ経営を続けたいかという意志です。
- 「もう一度立て直したい」→ 再生+支援体制構築
- 「誰かに任せたい、ただし事業は残したい」→ M&A型の承継
どちらも正しい選択です。
重要なのは、第三者の視点を入れて冷静に整理すること。その作業を、私たちは全力でお手伝いしています。
再生でもM&Aでも「会社の価値の見える化」が不可欠
どちらを選ぶにしても重要なのが、会社の価値を第三者にも伝わる形に“見える化”することです。
- 有資格者の在籍
- ゼネコンや地元工務店との信頼関係
- リピート率や紹介案件の比率
- 社内図面・施工記録の管理体制
- 外注ネットワークと安定稼働体制
こうした情報をきちんとまとめて、再生計画書や企業概要書に落とし込むことが、支援や承継を円滑に進めるうえで極めて重要です。
「売るか残すか」ではなく、「どう残すか」
よくある誤解に、「M&A=売却=撤退」というイメージがありますが、実際には“会社を未来に残す手段”としてのM&Aという考え方が広まりつつあります。
たとえば以下のような柔軟なスキームも可能です。
- 代表者交代後、元社長が顧問として残る
- 赤字部門のみを分社化して売却、本体は再生
- 幹部社員に段階的に経営権を渡す親族外承継
- 持株会社を設立して、グループ内で再編成
中小企業だからこそ、柔軟で現実的な経営設計が可能です。
最も避けたいのは「何もしないまま時間が過ぎる」こと
資金繰りが限界を超えてからでは、手遅れになるケースも少なくありません。
再生もM&Aも、“余力があるうちに動く”からこそ、選択肢が広がるのです。
「今すぐ決断できなくてもいい」
「まずは話を整理したい」
そんな段階でも構いません。
経営において最もリスクなのは、“動かないこと”です。
さいごに:ご相談は「第二創業」のスタート地点
35年という歴史は、御社にとって最大の財産です。
そのバトンをどう未来につなげるか。その判断を、私たちは冷静かつ実務的にサポートしています。
「経営を誰かに相談するのは恥ずかしい」
「失敗と思われたくない」
というお気持ちも理解できます。
しかし、実際にご相談いただいた多くの方が、「もっと早く相談しておけばよかった」とおっしゃいます。
経営者が迷ったときこそ、未来に向けた一歩を
ご希望があれば、当社ではご相談を無料で承っております。
どうぞお気軽にお問い合わせください。
中小企業診断士
田中 寛也 (Hiroya Tanaka)
建設業に特化した経営コンサルティング会社「タタアイズ」代表。売上と利益を改善する直接的な支援に強みを持ち、地域の中小企業の持続的成長をサポートしている。
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