【創業40年の電気通信設備工事会社に訪れた、事業承継の岐路】

【創業40年の通信設備会社に訪れた、事業承継の岐路】

ある日、1本の電話が鳴りました。

「実は体調を崩してしまって……。息子も家業を継ぐ気はなく、このままだと仕事が止まってしまうかもしれません。顧問税理士からM&Aに関する話も聞いたのですが、私共のような小さな会社でも引き受け手は見つかるものなのでしょうか?」

ご相談いただいたのは、地方都市で40年にわたり電気通信設備工事業を営んできた社長。社員数は13名で、その中には第一種電気工事士や消防設備士といった国家資格を持つベテラン技術者も在籍。官公庁、病院、学校などの公共性の高い施設を取引先とし、地域インフラを支えてきた存在でした。

しかし、社長がご病気になられて、経営能力のある社員がおらず海外で研究職として活躍するご子息も家業を継がないという判断になったので、第三者承継の選択を迫られることになります。

M&Aは「終わり」ではなく「未来をつなぐ手段」

M&Aは「終わり」ではなく「未来をつなぐ手段」

まず私が社長にお伝えしたのは、M&Aの本質です。

「御社のように地域に根差し、実績と技術力を有する中小企業は、決して“売りに出される”ような会社ではありません。むしろ、“価値を継承する”ための選択肢として、M&Aは非常に有効です。」

中小企業のM&Aと聞くと、「経営難の末の決断」や「身売り」といった否定的なイメージを持たれることもあります。しかし、現実には“将来を見据えた前向きな決断”として、M&Aを活用する中小企業が増えています

特に後継者がいない企業にとっては、M&Aこそが「社員の雇用」と「お客様との関係性」を守りながら、会社を次世代へつなげる唯一の手段となり得るのです。

3ステップで進めたM&A支援の全体像

3ステップで進めたM&A支援の全体像

このプロジェクトでは、以下の3ステップをもとに支援を行いました。

① 「売却理由」を価値あるストーリーに再構成

社長の体調不安や後継者不在という現実をそのまま伝えるだけでは、ネガティブな印象を与えてしまう可能性があります。

そこで私たちは、次のような「前向きな意志」として再定義しました。

  • 地域インフラの守り手として、次世代に技術と信頼を継ぎたい
  • 社員の雇用を守り、育成環境を整えたい
  • 若手が「働きたい」と思える会社として、リブランディングを図りたい

こうした社長の想いを軸に、企業概要書や社長メッセージ、Q&A資料など、買い手との共感を生むための“伝える資料”を丁寧に整備しました。

② ニーズが一致した買い手とのマッチング

買い手となったのは、東京を拠点とし全国展開を目指す通信ソリューション企業。

この企業は、

  • 西日本における有資格技術者の不足
  • 官公庁案件の受注実績の欠如

という課題を抱えていました。

一方、売り手企業は、

  • 第一種電気工事士や消防設備士などの有資格者が3名在籍
  • 官公庁案件が全体の7割超を占める高い公共性
  • 地元ゼネコンとの強固な信頼関係と高リピート率

という特徴を持ち、まさに補完関係にある理想的なマッチングとなったのです。

③ PMIを見据えたスキーム設計と“その後”

M&Aは、成約して終わりではありません。買収後の統合プロセス(PMI)をいかに丁寧に設計・実行できるかが、成否を分けます。

本件では、以下のようなスキームで合意しました。

  • 【譲渡形式】株式譲渡(現金一括)
  • 【評価方法】収益倍率法(年倍法)
  • 【雇用維持】従業員13名全員継続雇用
  • 【経営引継ぎ】社長は2年間顧問として残留

M&A後には、買い手企業の採用力と発信力がプラスに作用し、求人応募数が増加。若手社員にとっては「大きな資本の傘下で働く安心感」がモチベーションとなり、組織全体の活性化にもつながりました。

さらに、買い手企業の教育体制のもとでICT研修が実施され、「消防設備士 甲4種」の新たな資格取得にも成功。今では福祉施設や教育機関向けのスマート設備工事といった新たな領域への対応力も高まりつつあります。

また、地元の商工会や自治体からも「地元の雇用と事業が残ったことがありがたい」と喜びの声が寄せられ、地域との結びつきも一層強まりました。

経営者の不安に寄り添う専門家の存在

中小企業の経営者にとって、「会社を手放す」という選択は簡単ではありません。社員や取引先への責任感、自分が築いてきたものへの誇り、そして“自分がいなくなったら会社はどうなるのか”という不安。

だからこそ、私たちのような専門家が、数字や理屈だけでなく、社長の「心」に寄り添いながら、対話を重ねて伴走することが何より大切です。

最後に

今回の事例のように、たとえ企業規模が小さくとも、「この会社を未来に残したい」という想いがあるならば、M&Aは大きな可能性を持つ手段です。

大切なのは、「売る」ことではなく、「残したい価値は何か?」を見つめ直すこと

私たちはそのプロセスに伴走し、技術、人材、信頼関係といった“無形資産”を未来へとつなぐお手伝いをしています。

事業の将来に少しでも不安がある方へ。
気力はあるが次の一手を探している方へ。
どうぞお気軽にご相談ください。

“次の一手”は、必ず見つかります。

※本記事は実際の支援事例をもとに、一部フィクションを交えて構成しています。

執筆者

中小企業診断士 

田中 寛也 (Hiroya Tanaka)

建設業に特化した経営コンサルティング会社「タタアイズ」代表。売上と利益を改善する直接的な支援に強みを持ち、地域の中小企業の持続的成長をサポートしている。

タナカヒロヤ(田中寛也)

※本記事は、実際の中小建設業からのご相談事例を基に、一部フィクションを加えて再構成しています。

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