【右腕不在の悩み──社長が孤独にならないための仕組みとは】

【右腕不在の悩み──社長が孤独にならないための仕組みとは】

こんにちは。今回は、東京都内で電気工事業を営む経営者の方からのご相談をご紹介します。

建設業、とくに職人型の経営が色濃く残る電気工事業では、社長が営業・現場・経営のすべてを一人で担い、日々の意思決定を孤独に行っているという企業が少なくありません。

そんな中で、「自分が倒れたら会社はどうなるのか?」という不安を口にされる経営者が増えてきています。今回のご相談も、まさにそのような現場の声です。

ご相談内容:「もし自分が倒れたら…」という不安

ご相談内容:「もし自分が倒れたら…」という不安

当社は東京都内を中心に電気設備工事を手がけています。EV設備や再エネ関連といった新しい分野にも挑戦しており、若手社員も増えてきました。

創業から15年が経ち、業績も安定していますが、最近ふと「自分が倒れたらこの会社はどうなるのだろう」と不安になるようになりました。

現場を任せられる社員はいますが、経営について相談できる“右腕”が社内にいません。息子は会社を継ぐ予定がなく、M&Aや外部人材の登用も視野に入れた承継戦略を検討すべきではないかと考え始めています。

回答:「右腕不在」は“仕組み”で克服できる

回答:「右腕不在」は“仕組み”で克服できる

このような悩みは、多くの中小建設業者に共通しています。原因は個々の人材の能力ではなく、経営が属人的に構築されていることにあります。

つまり、「右腕がいない」のではなく、「右腕を育てる仕組みがない」状態なのです。

ここでは、経営の属人化を解消し、「右腕」を育てるための3つのアプローチを紹介します。

① 経営者の役割と時間を“棚卸し”する

最初のステップは、社長の仕事の見える化です。

現場、見積、採用、資金繰り、行政対応、営業──すべてを一人で行っている経営者は少なくありません。まずは、日々行っている業務を一覧化し、それぞれを次の2つに分類してみましょう。

  • 社長しかできない仕事:経営方針の決定、資金調達、組織文化の形成
  • 他の人でもできる仕事:現場調整、見積書作成、採用実務、得意先対応

この棚卸し作業により、「何を右腕候補に任せるべきか」「何を任せてはいけないか」が明確になり、役割分担の設計が可能になります。

② 「右腕」を育てるには計画と教育が不可欠

現場で優秀な社員が必ずしも幹部に向いているとは限りません。右腕に求められるのは、以下のような経営的なソフトスキルです。

  • 対人調整力:社内外の調整、クレーム対応、協力会社との関係構築
  • 財務感覚:粗利、原価、キャッシュフローの基本的理解
  • リスク判断力:トラブル対応、事業選定、契約交渉
  • 組織視点:人材育成、チームマネジメント、中長期視点

こうしたスキルを身につけさせるためには、OJTだけでなく体系的な育成計画が必要です。

育成ステップの一例としては:

  1. 社長同行による営業・打ち合わせへの同席
  2. 小規模案件の予算管理・工程管理の実践
  3. 月次の経営会議への参加
  4. 外部研修(人材開発支援助成金の活用も検討)

なお、「役職」ではなく、「期待役割」として明確に任せることで、自発性と責任感を引き出すことができます。

③ 右腕が育たない場合は、外部から採用・登用する

社内に候補がいない、または育成の時間が足りない場合は、外部からの登用も選択肢となります。

近年では、以下のようなケースが増えています:

  • 「後継者候補人材(ポスト社長)」として中堅層を採用
  • 都市部から地方企業への移住人材(Uターン/Iターン)
  • 副業・業務委託からの経営関与

さらに、経営承継型M&Aも視野に入れるべき選択肢です。これは、社長が一定期間残り、次の経営者を支えながらバトンタッチする仕組みで、事業の継続性や社員の安心感を高めます。

M&Aにおいて評価されるのは、「売上」だけではありません。

  • 有資格者の在籍状況
  • リピート率や顧客基盤の安定性
  • 地場ゼネコン・官公庁との信頼関係
  • 組織の定着率と育成方針

これら“見えにくい資産”を整理・文書化しておくことで、右腕候補や買い手企業への訴求力が高まります。

助成金の活用で育成コストを抑える

教育訓練にかかるコストが障壁となる場合は、助成金の活用が効果的です。

たとえば:

人材開発支援助成金(厚生労働省)
→ 企業が従業員に対して行う専門的な訓練について、経費や訓練期間中の賃金の一部が助成されます。

こうした制度を活用することで、限られた予算の中でも実効性のある育成計画を実行できます。

「右腕不在」は経営者の努力不足ではない

右腕が育たない原因は、経営者の能力や努力不足ではありません。多くの場合、次の3つの準備不足が原因です。

  1. 「何を任せるか」が明確になっていない
  2. 「任せる仕組み(役割分担・教育体制)」が整っていない
  3. 「任せた後の成長支援」が設計されていない

この3つを整えることで、「育たない→自分がやる→次がいない」という負の連鎖を断ち切ることができます。

最後に:社長一人が抱え込まない経営を

これからの建設業には、「人に任せられる社長」が求められています。

  • すべてを背負う経営から、分担する経営へ
  • 現場力だけでなく、組織力で勝負する企業へ
  • 社長がいなくても機能する“未来志向の経営体制”へ

その第一歩は、社長自身が「経営に集中できる環境」をつくること。

「右腕がいない」ことは悩みであっても、打開策がある課題です。明確な戦略と支援制度を活用することで、確実に一歩ずつ前進できます。
身近に相談できる方がおられない場合は、どうぞ外部の専門家を頼ってください。弊社でも、中小建設業向けに「右腕育成支援」「幹部候補育成計画」「M&Aを活用した承継戦略」など、現場実務に即した具体的な支援を行っています。

孤独な経営から、チームで支える経営へ。
その第一歩をご一緒に考えさせてください。

執筆者

中小企業診断士 

田中 寛也 (Hiroya Tanaka)

建設業に特化した経営コンサルティング会社「タタアイズ」代表。売上と利益を改善する直接的な支援に強みを持ち、地域の中小企業の持続的成長をサポートしている。

タナカヒロヤ(田中寛也)

※本記事は、実際の中小建設業からのご相談事例を基に、一部フィクションを加えて再構成しています。

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