【建設業の次の一手──後継者不在と成長停滞を打開する戦略とは】

【建設業の次の一手──後継者不在と成長停滞を打開する戦略とは】

こんにちは。今回は、建設業における事業承継のご相談をご紹介します。

建設業界では、経営者の高齢化が進み、後継者が見つからないという課題が多くの企業で顕在化しています。「家族には継がせられない」「社内に候補はいるが不安」「今後の成長が見えない」──そんな声が全国各地から寄せられています。

今回は、大阪で長年舗装・土木工事を担ってきた中小建設会社の経営者から寄せられた、非常に示唆に富むご相談をご紹介します。

ご相談内容:後継者不在と、未来への不安にどう立ち向かうか

ご相談内容:後継者不在と、未来への不安

当社は大阪に本社を構える舗装・土木工事会社です。
長年、地域のインフラ整備に携わり、地元の信頼を築いてきました。

しかし私も70歳に近づき、そろそろ次の世代へのバトンタッチを考える時期になりました。
息子は異業種で働いており、会社を継ぐ意志はありません。
社内には真面目な幹部候補もいますが、経営まで任せるには経験も視点もまだ足りないように感じています。

また、長年付き合ってきた取引先や金融機関との関係は、私個人に強く依存しているのが実情です。
私が退いた後もこの会社がしっかりと運営できるのか、不安があります。
最近ではM&Aという選択肢も耳にしましたが、どう進めるべきか、またその後に会社を成長させることは可能なのでしょうか?

回答:事業承継は“幕引き”ではなく“第二の創業”である

回答:事業承継は“幕引き”ではなく“第二の創業”である

ご相談ありがとうございます。まさに多くの中小建設業が抱えている悩みを象徴する内容です。

事業承継とは単なる“引き継ぎ”ではありません。これまでの経営を見直し、次の成長のために「会社の姿を再設計する機会」でもあります。

特に建設業は技術力・信頼関係・現場経験といった“無形資産”の比重が高いため、経営の引き継ぎには計画性と戦略性が求められます

以下、今後の打ち手を順を追ってご紹介します。

①「見えない経営資産」を“見える化”する

まず着手すべきは、経営の“属人性”を解消することです。

現在のように、経営者個人に依存している業務が多いと、承継後の運営が不安定になる可能性があります。たとえば、

  • 取引先との信頼関係が“社長の顔”に依存している
  • 資金繰り・銀行対応をすべて社長が管理している
  • 工事の品質や現場指示も社長が中心で行っている

こうした属人的経営から脱却し、組織として機能する体制への転換が必要です。

その第一歩が、「見える化」です。例えば以下のような取り組みを進めましょう。

  • 取引先情報や受注履歴をデータで一元管理
  • 現場運営マニュアルや安全管理ルールを整備
  • 金融機関・行政への定例報告体制の構築
  • 人事評価制度や給与体系の明文化

見える化された会社は、次の経営者が入りやすく、買い手から見ても「引き継ぎやすい会社」に映ります。

② 幹部育成:現場から“経営”の視点へ

社内に後継候補がいる場合、その方が「現場力」に優れていることは多いですが、「経営感覚」には不安が残るケースが多く見られます。

このギャップを埋めるには、以下のような段階的な育成ステップが有効です。

  • 月次損益や工事原価の報告会に幹部も同席させる
  • 小規模案件の収支管理や見積作成を任せてみる
  • 外部研修(財務・労務・リーダーシップ)へ定期的に参加
  • 評価制度を通じたキャリアパスの明確化

幹部育成は一朝一夕では実現できませんが、数年単位で育てていくと“自分ごと”として会社を考えるようになり、組織の自立性が格段に高まります。

③ M&Aという「前向きな承継」戦略

後継者が身内にも社内にもいない、あるいは将来的に不安がある場合、M&A(第三者承継)は非常に現実的かつ有効な選択肢です。

とくに建設業においては、次のようなマッチングが成立しやすい傾向があります。

  • 若手社長の建設会社が人手・現場力を求めて買収を検討
  • 地場での施工実績や地元ネットワークを強みとする企業を探している
  • 元請化を目指す企業が、職人チームごと引き継ぎたいと考えている

M&Aは「売却=敗北」ではなく、地域の技術・雇用・価値を“次に託す”選択肢です。売り手としても、「譲渡後も地元に会社が残る」「社員が雇用を維持できる」といった点を大切にするマッチングも増えています。

成功の鍵は、早めに準備を始めることです。会社の経営状況を整理し、第三者に説明できる形に整えることで、よりよい条件での交渉が可能になります。

④ 成長の柱を見据えた「未来志向」の承継戦略

承継は「会社を守る」だけでなく、「会社を伸ばす」ことにもつながります。

たとえば、以下のような分野は建設業界の“成長領域”です。

  • 公共インフラの長寿命化対応(維持・点検・補修)
  • 民間施設の外構・舗装ニーズ(物流倉庫、工場、商業施設)
  • 災害復旧・防災関連工事(気候変動・震災対応)
  • 元請化による利益率改善と営業強化
  • デジタル化・省人化への投資(ICT施工など)

現経営者が培った信用と、次世代の柔軟な発想をかけあわせることで、「守る承継」から「攻める承継」へと転換できます。

最後に──事業承継は「煩わしい悩み」ではなく未来に向かっての会社と個人の「前向きな人生設計」

事業承継の課題は、「時間をかければ解決するもの」ではありません。むしろ、準備にかけた時間の長さが、成功率を決めるといっても過言ではありません。

  • 社内に後継候補がいるなら、早めに育成と役割分担を
  • 社内外に候補がいないなら、M&Aの可能性を探る
  • どちらの道も選べるよう、経営の見える化を今すぐ始める

将来に向けて、経営者が「最後まで自分で抱えない」こと。それが、会社・社員・取引先にとって最善の道となります。

ご相談はお気軽にどうぞ

弊社では、建設業に特化した事業承継・M&A支援を行っています。引退後の人生設計から、社内承継・M&A、承継後の成長戦略立案まで一気通貫でサポート可能です。

「まだ具体的に決めていない」「候補者はいるが不安がある」──そんな段階でも大歓迎です。お気軽にご相談ください。

執筆者

中小企業診断士 

田中 寛也 (Hiroya Tanaka)

建設業に特化した経営コンサルティング会社「タタアイズ」代表。売上と利益を改善する直接的な支援に強みを持ち、地域の中小企業の持続的成長をサポートしている。

タナカヒロヤ(田中寛也)

※本記事は、実際の中小建設業からのご相談事例を基に、一部フィクションを加えて再構成しています。

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