【資金繰りと人材確保に悩み思考停止に陥る中小建設業経営者】

【資金繰りと人材の両立に悩む建設業の現場から】

こんにちは。今回は、建設業の最前線で奮闘されている経営者の方からのリアルなご相談をご紹介します。

建設業界では、「人材確保」と「資金繰り」という二大経営課題が企業の存続を揺るがす現実として存在しています。今回のケースは、その典型ともいえるものです。

ご相談内容:人材確保と資金繰り、二重苦で廃業の危機に…

ご相談内容:人材確保と資金繰り、二重苦の現場から

当社は大阪府に本社を置く、土木・舗装工事を主力とする建設会社です。民間ゼネコンの下請け工事を中心に手掛け、堅実に実績を重ねてきました。社員数の増加とともに、福利厚生や給与水準の引き上げにも取り組み、組織の安定を図ってきました。

しかし、近年は資金繰りの厳しさが深刻化しています。下請けでの取引が多いため、元請からの入金が遅れるケースが増えており、材料費や外注費、人件費などの支払いとのタイミングのズレが、キャッシュフローを圧迫しています。加えて、建設資材の高騰や「2024年問題」に伴う労働時間制限の影響で、現場の生産性が低下していることも悩みの種です。

また、若手人材の採用と定着にも課題があります。求人広告への投資はしているものの、数ヶ月で離職するケースもあり、教育投資が無駄になる場面も見受けられます。

こうした中で金融機関に相談したところ、「現状の借入残高や利益状況を踏まえると、新たな融資は難しい」と言われてしまいました。現在は社内で返済条件の見直し(リスケ)の検討も始まっていますが、「社員の生活を守りたい」という想いと、現実の資金不足との間で板挟みになっている状況です。

今後は、収益構造の安定を図るべく、公共工事の受注や元請けとしての案件獲得にも力を入れていきたいと考えています。

回答:リスケを含めた戦略的再構築が打開のカギ

回答:リスケを含めた戦略的再構築が打開のカギ

ご相談ありがとうございます。今回のケースは、「事業拡大」と「資金の流れ」のズレが表面化した典型例といえます。

これは決してネガティブな出来事ではなく、むしろ中長期的な企業価値の見直しを図る好機です。

金融調整(リスケ)は再起のための選択肢

まず、資金繰りの逼迫に対しては金融調整(リスケ)を前向きに検討するべきです。

月々の返済を一時的に減らすことで、キャッシュアウトを抑え、再建のための“時間”を確保することができます。中小企業活性化協議会の405事業(経営改善計画策定支援)を活用すれば、中小企業診断士・税理士などの中小企業の経営支援専門家(認定支援機関)に支払う費用負担を減らしながら、金融機関との交渉や経営改善計画策定の支援を受けることができます。これにより、計画的な再建に取り組みやすくなります。

「リスケは印象が悪い」と思われるかもしれませんが、実際には、計画的な説明と意思を持って交渉に臨めば、金融機関も理解を示すケースが増えています。制度的にも中小企業の再生支援体制は整備されてきており、正しく使えば企業再建の強力な武器になります。

採用と育成:求人広告ではなく“組織戦略”で戦う

人材問題に関しては、採用に頼りきるのではなく、組織そのものの魅力を高めることが最優先です。

  • キャリアパスや人事評価の明確化
  • 教育体制の再設計(現場OJT+外部研修)
  • 中間管理職の育成による組織の厚み強化

といった内部の仕組み作りが定着率に直結します。

さらに、外国人技能実習生や特定技能人材の採用も視野に入れると、労働力の安定供給につながります。

施工管理業務の一部外注化や協力会社との連携を通じて、自社が“すべてを抱え込まない”戦略的組織運営を進めることも重要です。

公共工事・元請け開拓を軸とした売上構造の再設計

現在は民間ゼネコンの下請工事が主軸とのことですが、今後を見据えると、公共工事の受注や元請け案件の獲得に注力していくことは非常に有効です。

公共工事は、発注元が明確である分、資金の安全性が高く、長期的な見通しも立てやすい分野です。入札資格の取得や官公庁との関係構築など、少し時間はかかるかもしれませんが、着実に取り組む価値があります。

また、元請け案件の拡大は利益率の改善につながります。直接受注の比率を高めていくことで、価格交渉の主導権を握れるようになり、資金繰りにも余裕が生まれやすくなります。

そのためには、見積作成力や現場管理能力、営業力など、自社の総合力を高める必要があります。並行して、地域密着型の営業や紹介制度の活用、ホームページの刷新なども有効です。

経営再構築の三本柱:短期と中長期をつなぐ視点

現在のような局面では、「資金」「人材」「売上」の三つを切り離さず、連動させて見直すことが不可欠です。

【1】資金戦略の再構築

  • リスケと405事業の活用
  • 補助金・助成金の情報収集と活用

【2】組織力の再設計

  • 採用・定着戦略の見直し
  • 外部人材・外注との最適な連携

【3】売上構造の進化

  • 公共工事・元請け比率の拡大
  • 継続案件の獲得に向けた営業基盤の整備
  • 利益重視の案件選定

最後に:変革の時期こそ、次の成長の種をまくとき

企業経営において、“問題が顕在化したとき”こそが、大きな変革のタイミングです。

すべてを一気に変える必要はありません。まずは資金の「流れ」を整え、次に「組織の形」を整え、その上で「売上の柱」を育てていく。これが、建設業の再生における王道です。

私たちは、そうした取り組みに並走する専門家として、客観的な視点と具体的な施策を提供しています。お気軽にご相談ください。一歩ずつ、しかし着実に、未来を切り拓いていきましょう。

執筆者

中小企業診断士 

田中 寛也 (Hiroya Tanaka)

建設業に特化した経営コンサルティング会社「タタアイズ」代表。売上と利益を改善する直接的な支援に強みを持ち、地域の中小企業の持続的成長をサポートしている。

タナカヒロヤ(田中寛也)

※本記事は、実際の中小建設業からのご相談事例を基に、一部フィクションを加えて再構成しています。

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