資金繰りに悩む中小企業は多く存在しますが、その中には「リスケ(リスケジュール)」という言葉に対し、誤った認識や根拠のない不安を抱いてしまい、手遅れになるケースも少なくありません。
今回は、建設業を営むある中小企業の経営者からのご相談をもとに、資金繰り改善の現実的な選択肢として「リスケ」をどう捉えるべきか、そしてどのような一手があるのかを、実務家の視点からご紹介します。
ご相談内容:黒字回復も、資金繰りが追いつかない

当社は設立から15年、年商は2億円弱の建築工事会社です。コロナ禍では現場の停止により一時的に大きな赤字を計上しましたが、最近は受注案件も増加傾向にあり、黒字転換もようやく視野に入ってきたところです。
しかし、当時の資金繰り対策として重ねた借入が重くのしかかり、月々の返済負担が経営を圧迫しています。加えて、建設業特有の繁閑差による不規則な入金タイミングや、従業員の定着を目的に実施せざるを得なかった賃上げのコストも資金繰りを逼迫させる要因となっています。
本来であれば、公共工事の受注を増やして収益基盤を安定させたいと考えているものの、日々の資金繰りの不安に追われ、打ち手を講じる余力がありません。
顧問税理士に相談したところ、「リスケ(返済条件の変更)を行うと、金融機関からの信用に影響が出るかもしれない」との助言があり、判断に迷っています。役員貸付などの指摘もあり新規融資は厳しい状況のようです。短期の資金繰りにノンバンクやファクタリングを視野に入れざるを得ない状況ですが、手数料や信用への影響を考えると、不安ばかりが募っているのが正直なところです。
このままでは、状況が改善しないまま時間だけが過ぎていくのではないかという焦りと、何から手をつけていいのか分からないという不安の中で、悩み続けている状況です。
回答:リスケは「終わり」ではなく「立て直し」の起点

ご相談いただきありがとうございます。
まず結論から申し上げると、今のような状況下では「追加融資」に期待するよりも、まずはリスケ(返済条件の変更)を最優先で検討すべきです。
「リスケ=信用失墜」と思われがちですが、これは大きな誤解です。むしろ、適切な準備と専門家の関与があれば、金融機関からの信頼を維持したまま実行することが可能です。
なぜ今「リスケ」なのか?その実務的意義
- 資金繰りを即時に改善できる
- 毎月の元本返済を一時的に止める、もしくは減額することで、キャッシュフローを安定させ、事業の立て直しに集中できます。
- 金融機関との関係性を“壊さずに”進められる
- 単独での交渉ではなく、認定支援機関(中小企業診断士や税理士など)が間に入ることで、計画的なリスケとして公的な支援スキームに乗せられる場合があります。
- 補助制度と組み合わせることで負担を抑えられる
- たとえば、国が実施する「405事業(経営改善計画策定支援事業)」などを活用すれば、専門家の支援費用の大半を補助でまかなえる場合もあります。
ノンバンクやファクタリングへの安易な依存は禁物
一方で、ノンバンクからの借入やファクタリングには注意が必要です。
- ノンバンク融資の金利は非常に高く、返済負担が大きくなりがちです。
- 銀行がその事実を知った時に、信用格付けが大きく下がる恐れがあります。
- ファクタリングは資金化できる売掛がある前提であり、実行後の手数料負担が高く、繰り返すと資金繰りが悪化します。
これらの手段は、あくまで「当て」がある・短期的な立て直し計画が見えている状況でのみ選択肢になり得るものです。
現状のように根本的な改善が未着手であるなら、むしろ逆効果になる可能性もあります。
リスケの進め方と必要な準備
- 資金繰り表の作成
- まずは最低6か月~12か月の資金繰り計画表を作成しましょう。
「いつ、いくら不足するのか」を可視化することで、対金融機関だけでなく社内判断の基礎資料にもなります。
- まずは最低6か月~12か月の資金繰り計画表を作成しましょう。
- 経営改善の方向性整理
- 「公共工事の比率を高める」「販管費の見直し」「原価の見える化」など、収益性改善に向けた大枠の方針が必要です。
- 支援機関との連携
- 中小企業活性化協議会や地域の認定支援機関と連携することで、よりスムーズかつ正式な形でのリスケ手続きが可能になります。
リスケは「戦略的撤退」ではなく「攻めの再構築」
ここで確保した時間で、たとえば:
- 営業体制を強化し、民間案件や高付加価値工事を獲得
- 原価管理を徹底し、粗利率を改善
- 補助金を活用して、教育訓練・ブランディング強化に着手
といった経営の再構築に集中することが重要です。
「リスケ=負け」ではない。恥ずかしがらず動こう
よく、「リスケしたら銀行に見限られる」「世間体が悪い」といった声を聞きますが、それは過去の話です。
むしろ、ギリギリまで資金繰りに耐えきれず、倒産・廃業に至る方がよほど悲しい結末です。
未来に向けて:資金繰り×利益構造×組織体制の再構築を
最終的な再建のカギは、「資金繰りの延命」ではなく、利益を生む体質への転換です。
- 資金調達(金融調整・スポンサー探しなど)
- 収益構造の見直し(選択と集中、付加価値強化)
- 組織体制の最適化(評価制度、外注戦略、人材育成)
これらをバランスよく進めることで、一時的な危機が“第二創業のチャンス”に変わる可能性があります。
さいごに:判断を先延ばしにせず「今」動くことが最大のリスク対策
経営者が最も陥りやすいのは、「決断を先送りにすること」です。
資金が枯渇してからの打ち手は限られており、その時点で選択肢はほぼなくなります。
弊社では、建設業を中心とする中小企業のリスケ支援・資金繰り改善・事業再生を多数支援してまいりました。
リスケに対する正しい理解と、実行可能な支援策をもとに、御社の経営再構築に伴走いたします。
まずはお気軽にご相談ください。
中小企業診断士
田中 寛也 (Hiroya Tanaka)
建設業に特化した経営コンサルティング会社「タタアイズ」代表。売上と利益を改善する直接的な支援に強みを持ち、地域の中小企業の持続的成長をサポートしている。
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